研究概要 |
ヒトが臥位から立位に急速に姿勢変換すると、通常は自律神経反射が起きて血圧は正常に保たれるが、よく運動鍛練されたヒトは失神を起こしやすいといわれている。本研究の目的は運動鍛練者の姿勢変換時耐性低下の原因として自律神経を介した頸動脈洞圧受容器(高圧系)および/または心肺圧受容器(低圧系)の血圧反射の感受性の低下或はリセッティングが関与しているか否かを検討することである。初年度は運動鍛練者として少なくとも6年間以上長距離走トレーニングを行っている体育専攻女子学生8名と、非鍛練者として、特に定期的な運動はしていない医学部女子学生7名を被験者にして頸動脈洞圧受容器-心臓圧反射応答を調べた。実験にはネックチャンバーを用い、頸動脈にかかる圧力を変化させた時の心臓の圧反射応答をR-R間隔で評価した。その結果、運動鍛練者は非鍛練者に比べく圧反射の感受性が有意に増大していた。最大酸素摂取量と圧応答曲線のスロープとの間に有意な高い正相関が見られることから、圧反射応答の感受性の増加は運転鍛練に伴う変化であると推察された。次年度は下半身陰圧負荷装置(lower body negative pressure, LBNP)を用いて、運動鍛錬者20名、非鍛錬者9名に0から-60mmHgまで3分間ごとに-10mmHgずつ下半身陰圧負荷を行い、心臓循環系の反応を調べた。その結果、実験中失神前兆候を示してLBNPを-60mmHgまで完遂出来なかった被験者は、非鍛錬者では9名中2名(22%)であるのに対し、運動鍛錬者では20名中12名(60%)と有意に高率であった。この失神前兆候は両グループ共に突然の徐脈と血圧下降が起きるvasovagal syncopeであった。血圧反射応答の感受性は失神前兆候者と正常者の間で差が見られなかった。以上から、運動鍛錬者の姿勢変換時耐性やLBNP耐性の低下は圧受容器反射の感受性低下によるものではないと結論した。
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