老化仮説の一つである消耗説によると活動すればする程老化が促進されることになる。一方、脳の老化予防には脳を大いに活動させるべきであるとの考えが一般である。本研究では、全身的な影響(ホルモン系や呼吸・循環器系への影響)を極力抑さえ、運動ニューロンの活動量と老化に伴なう細胞死との関係を調べた。 研究対象をラット下腿の内側腓腹筋(MG筋)を支配する運動ニューロン(MG-MNs)とし、活動量を高めるために協力筋である外側腓腹筋・ヒラメ筋・足蹠筋(何れも一側のみ)を取り除き、MG筋に掛かる負荷を大きくした。17または24ヵ月齢のフィッシャー雄ラットをネンブタール麻酔下に上記手術を行った後、通常の条件下で飼育した。24、28、30ヵ月齢に達した時点で、MG-MNsをHRPの軸索内輸送を利用して標識し、その数を数えると共に細胞体の断面積を計測した。MG筋の湿重量も測定した。 HRPで標識されたMG-MNs数は月齢が進むに従って減少し、今回の実験期間に神経細胞死が起こっていることを示していた。何れのラットに於いてもMG筋の湿重量は手術側で約30%重く、行動上も手術側・無処置側に差が認められず、MG-MNsの活動量は手術側で高く維持されていたと考えられる。しかし、手術側・無処置側の間に有意差は無く、MNsの活動レベルを高めたことによる効果は認められなかった。細胞体の断面積にも手術側・無処置側間および月齢による差は認められなかった。本実験の結果は1.活動の増加による利的効果と有害な効果とが互いに相殺した、2.利的効果を現わすほど活動量が高くなかった、3.元々、老化に伴なう神経細胞死に活動量の高低は重要な因子として働いていないことなどを示唆しており、ニューロンの活動量とその老化進行との関係については、今後更に検討していく必要がある。
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