研究概要 |
海馬長期増強(LTP)の発現のプロセスは誘導期と維持期に分けられる。維持期は蛋白質合成依存性であり、NMDA受容体を介する細胞内Ca^<2+>の上昇が遺伝子発現の引き金となる。これまでに海馬LTPにおいてNMDA受容体の活性化がCaMキナーゼIIの活性上昇を起こすことを明らかにした(J.Biol.Chem.,1993)。本研究ではCaMキナーゼIIのシナプス前終末、後部での基質であるシナプシンI、微小管付随蛋白質2のin situでの燐酸化反応がLTPの誘導期に亢進すること、LTPが発現した錐体細胞においてCaMキナーゼIIの蛋白量が増加することを見いだした(J.Biol.Chem.,1995)。NMDA受容体阻害剤でLTPの発現を阻害するとこれらの燐酸化反応の亢進、酵素蛋白質の増加は完全に消失した。これらの結果は海馬におけるLTPの発現にCaMキナーゼIIがシナプス前部、後部の両方において関与すること、蛋白質合成を介したシナプス部位でのCaMキナーゼIIの再構成が長期のLTP維持機構への関与を示唆している。さらに、培養アストロサイトにおいてグルタミン酸受容体刺激がCaMキナーゼIIの活性化を引き起こすこと、同時に、アストロサイトの細胞骨格蛋白質であるグリア線維性酸性蛋白質とビメンチンが本酵素によって燐酸化されることを確認した(J.Biol.Chem.,1994)。アストロサイトではCaMキナーゼIIは核内にも存在する。核内では転写調節因子であるCCAAT/enhancer結合蛋白質(C/EBPβ)が本酵素の基質蛋白質のひとつであることを確認した。C/EBPβは免疫組織学的に調べると核内存在し、グルタミン酸受容体刺激によって燐酸化反応が亢進した。今後はグルタミン酸受容体を介する遺伝子発現におけるC/EBPβの関与とCaMキナーゼIIによる燐酸化反応の役割について追究する。
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