インスリン刺激により活性化されたインスリンレセプターチロシンキナーゼはInsulin Receptor Substrate-1(IRS-1)の複数のチロシン残基をリン酸化し、そこにPI3-キナーゼのSH2ドメインが結合することによりPI3-キナーゼは活性化される。酵母のPI3-キナーゼはタンパクの細胞内輸送に必須であることが明らかにされた。そこでPI3-キナーゼはGLUT4のtranslocationにも関係する可能性が考えられたので、PI3-キナーゼのinhibitorであるwortmanninを申請者らが新しく開発した細胞に働かせたところ50nMの濃度でインスリンによるPI3-キナーゼの活性化とGLUT4のtranslocationがほぼ完全に阻害された。しかし、同濃度のwortmanninでは3量体Gタンパクを活性化すると考えられているNaFによるGLUT4のtranslocationは阻害されなかった。この結果はインスリン刺激により活性化されるPI3-キナーゼがGLUT4のtranslocationへのシグナル伝達を担っていると予想される。今回、PDGFがGLUT4のトランスロケーションを引き起こし、糖を取り込むことを見い出した。さらに、PDGFレセプターの自己リン酸化部位のチロシンをフェニルアラニンに変異させた変異体を用いてPDGFによるGLUT4のトランスロケーションに関与している細胞内シグナル伝達分子についての解析をおこなった。4種類の変異体を発現させた細胞で、GLUT4のトランスロケーションとPI3-キナーゼ活性を解析した結果より、PDGFによるGLUT4のトランスロケーションは主としてPI3-キナーゼの経路を介して引き起こされること、さらにPLC_γ→PKCの経路も弱いながら存在することを明らかにした。 以上より、これまでインスリンに特異的と考えられていたGLUT4のトランスロケーションと糖の取り込み作用とがPDGFのような細胞増殖因子にも認められることが明らかになり、その作用に関与する主要な細胞内シグナル伝達因子がPI3-キナーゼであることが明らかにされた。
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