我々は以前、細胞表面膜に局在するセリンプロテアーゼであるジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)の活性部位変異体が小胞体内で凝集体を形成した後、分解されることを示した。DPPIV欠損ラットの解析を含む一連の研究で、本酵素の活性部位配列に変異があると(変異体)は生合成後、多量体を形成して小胞体に停留され、極めて速やかに分解されることを明らかにした。すなわち、活性部位の変異によって多量体(凝集化)になったDPPIVは、異常蛋白質として小胞体の蛋白分解系によって処理されるものと考えられる。この分解へのプロテアーゼ・インヒビターの影響を調べた結果、ALLNやTPCKの作用に分解阻害がみられることから、小胞体内では最終的にシステインおよびセリンプロテアーゼの関与により分解される可能性が考えられる。さらに小胞体内での分解にDPPIVの膜結合領域が関与しているのか否か、また他の領域が特異的に関与する部位が存在するかを検討した。DPPIVのLeu^<28>→Alaの可溶化型変異体を作成してCOS-1細胞に発現させ、その生合成、分解を解析した。その結果、次の点を明らかにした。1)本酵素はN末端のシグナルペプチドによって膜に結合しているが、シグナルペプチドの疎水性アミノ酸を改変するとシグナルペプチドが切断されて、DPPIVは細胞外へ分泌されるようになる。しかし、2)分泌型になっても活性部位変異体は、膜結合型の場合と同じように小胞体に停留され分解される。 さらに最近注目を集める小胞体膜蛋白質である分子シャペロンカルネキシンがこのDPPIV変異体と相互作用することが解かった。DPPIVとカルネキシンの結合は、DPPIVが野生型でも、変異体型でもどちらでも起こる。しかし、変異体にくらべると野生型との結合は短時間である。糖鎖合成阻害剤ツニカマイシンやカスパノスペルミン存在下でも、カルネキシンとDPPIVの結合が見られた。このことは、カルネキシンが糖鎖を認識すると同時に、蛋白質部分(フォールディングが不完全な)をも認識することと一致する。DPPIVは、小胞体内で生合成直後、蛋白質部分がまだ不完全なフォールディングの状態で、糖鎖が付加される。この時点でカルネキシンはこの糖鎖を認識し結合する。さらに不完全な蛋白構造を認識して結合し続ける。最終的にこのカルネキシンによる結合過程は、小胞体内での分解の初期の選別過程であるかもしれない。
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