NIH3T3細胞からRNAを抽出し、cDNAライブラリーの作製を試みているが、これまでのアイソゲン(日本ジーン社製)を用いた方法によって量的・質的に満足できるmRNAが精製できず、本研究の遂行は初期の段階から困難を極めている。そこで、申請者らがこれまで行なってきた脂質代謝の方面からアプローチ、すなわちDGキナーゼのcDNAトランスフェクションによる脂質代謝の変動について検討を加えた。 ras導入DT細胞においては恒常的にジアシルグリセロール(DG)量が高くCキナーゼ(PKC)活性は部分的にダウンレギュレートされており、DT細胞におけるCa^<2+>オシレーションの誘導にはPKCの部分的なダウンレギュレーションが必要である。そこで、DG量を変化させて、PKCの活性変動やCa^<2+>オシレーションに対する効果を検討するために、DGの代謝酵素であるDGキナーゼ(DGK)のαアイソザイムcDNAをDT細胞に導入した。DGKαのcDNAを導入しDT/D細胞の発現量はノーザンおよびウェスタンブロッテイング法によって確認し、そのDGK活性は部分的なダウンレギュレーションは解除され、親細胞に近似した活性が得られた。一方、アンチセンスDGKを導入した細胞(DT/K)細胞とは逆の結果、すなわちDG量はさらに高くなり、PKCのダウンレギュレーションはさらに進んだ。これらの細胞のブラジキニン刺激によるCa^<2+>オシレーションについて検討したところ、DT/D細胞ではCa^<2+>オシレーションが消失し、DT/K細胞ではこれがむしろ増強された。 一方、DT/D細胞を[^3H]グリセロールで標識し、ブラジキニン刺激したが、対照細胞に比べて著明なホスファチジン酸(PA)の産生は認められなかった。DGキナーゼにはいくつかのアイソザイムの存在が知られており、刺激に伴うPA産生には導入したDGキナーゼの関与が少ないこと、あるいはホスファターゼ活性が高くリン酸化されたPAが直ちにDGに変換される可能性も考えられた。
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