DT細胞におけるThy-1発現抑制の分子メカニズムとして、1)Thy-1蛋白質の早期分解、2)Thy-1蛋白質の糖鎖付加の異常などが考えられるが、本研究では発現クローニングの手法によってThy-1発現抑制のメカニズムを解明しようとした。GPIアンカー蛋白質の発現異常は、Thy-1蛋白質に糖鎖を付加しホスファチジルイノシトールを結合する過程での数種の酵素のうちのいずれかの欠損によることが多い。現在までにGPIアンカー蛋白質の合成に関する8種類の相補性細胞群の存在が知られているが、ヒトでその酵素遺伝子が解明されているのはPIG-AとPIG-Fのみであり、マウスではPIG-Aのみが明らかにされているにすぎない。しかし、"2倍体の哺乳動物の細胞では欠損するものが劣性である場合は、発現クローニングによっては解明できない"ということを大阪大学医学部微生物病研究所免疫異常部門の竹田潤二教授から学んだ。欠損するものが劣性であるか否かをNIH3T3細胞とDT細胞とのfusionなどによって調べることが必要であり、優性の場合にはcomplementation assayによって欠損遺伝子を明らかにすることができるが、劣性の場合は発現クローニングによっては困難であることがわかった。 そこで、すでにマウスの遺伝子構造が明らかとなっているPIG-Aについてreverse transcriptase-PCR(RT-PCR)法によってメッセージの発現を解析した。すなわち、マウスPIG-A遺伝子に相補的な2組のPCR primer setsを合成し、544および1023bpのバンドが検出される系で検討した。DTおよびNIH3T3細胞の両者に544bpのバンドが、1023bpのバンドはDT細胞においてのみ検出された。この結果は、DT細胞にPIG-A遺伝子が欠損しているという予測に反するものであり、PIG-A以外の欠損が示唆された。
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