研究概要 |
マウスの生後発達過程における脳内遊離セリン含有量の変化を調べた.L型の含有量は加齢とともに増加し,8週で成熟マウスのレベルに達した(1μmol/g湿重量).脳の部位における差異は認められなかった.一方,D型の含有量は大脳では加齢とともに増大したが(D/L【planck's constant】.4),小脳と脳幹では生後2週目で最大となり,以後減少し,成熟マウスではD/L比は脳幹で0.12,小脳で0.03 D-アミノ酸オキシダーゼ活性は各種シナプスを取り囲むグリア細胞の突起に特に強く認められた.これらのシナプスのタイプやニューロンの種類,あるいは伝達物質の種類には何の相関や規則性も見いだされず,オキシダーゼ活性の分布はある一つの特別なタイプのニューロンやシナプスと関係があるわけではなかった. ラット脳内におけるNMDA受容体の分布を,D-[^3H]セリンの結合によりオートラジオグラフィー法で検討した.D-セリンの結合量は前脳で多く,特に海馬で強かった.これら結合に対するNMDA受容体の非競合的アンタゴニストの影響等について目下検討中である. 哺乳類の中枢神経系では,NMDA受容体が多く分布する前脳に遊離D-セリンが大量に存在し,そこではその分解酵素であるD-アミノ酸オキシダーゼは発現していない.なすわち哺乳類の脳でのD-セリンやNMDA受容体の分布は,D-アミノ酸オキシダーゼの分布と逆相関している.これらのことから,D-アミノ酸オキシダーゼは中枢神経系においてD-セリンを含む遊離D-アミノ酸を生理的に分解していて,その活性の程度(比活性)はD-アミノ酸の脳の各部位における定常濃度を決定するために重要であると結論された.
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