研究概要 |
D-セリンは神経興奮性アミノ酸受容体の一つであるNMDA受容体の活性化剤である.脳内D-セリン含有量は鳥類以下の下等脊椎動物では低かったが,ヒトを含む哺乳類では前脳に〜400nmol/g湿重量(D/L比=0.4)も存在した.しかし後脳での含有量は低かった.D-セリンは無菌マウスでも同程度検出され,腸内細菌には由来しないことが判明した.ラット脳でのD-[^3H]セリンの結合量は前脳(特に海馬)で多く,NMDA受容体は前脳に多く分布することが示された.一方,D-セリンの分解酵素であるD-アミノ酸オキシダーゼは前脳にはなく,脳幹・脊髄・小脳に限局して分布していた.含有細胞は小脳でのベルクマングリア細胞を含め星状グリア細胞のみであり,他のタイプのグリア細胞・ニューロン・内皮細胞・上衣細胞には本酵素は全く存在しなかった.オキシダーゼ活性は各種シナプスを取り囲むグリア細胞の突起に特に強く認められたが,活性の分布はある一つの特別なタイプのニューロンやシナプスと関係があるわけではなかった. 以上から,哺乳類の脳でのD-セリンやNMDA受容体の分布は,D-アミノ酸オキシダーゼの分布と逆相関していること,その結果,星状グリア細胞はall-or-none型に部位的に分化していることが明らかになった.さらに,オキシダーゼは中枢神経系においてD-セリンを含む遊離D-アミノ酸を生理的に分解していて,その活性の程度(比活性)はD-アミノ酸の脳の各部位における定常濃度を決定するために重要であると結論された.
|