本研究は女性ステロイドホルモンであるエストロゲンの生合成の最終段階を触媒するエストロゲン合成酵素(P450aromとも呼ばれている)の遺伝子の発現制御機構の詳細を分子レベルで明らかにしようとするものである。研究代表者は今までに、ヒト絨毛性腫瘍細胞において本酵素遺伝子の転写活性が代表的な発がんプロモーターである12-O-tetradecanoyl-phorbol 13-acetateで著しく上昇することを明かにしてきた。さらに、このTPAによる転写の活性化には転写開始点の上流-2141と-2115の位置にある26塩基対の配列の存在が重要な役割を担っていることを明らかにしていた。本年度はこの転写制御配列に結合することによって、その制御を実際におこなっている核内因子を同定し、その性質を明らかにすることを目的として研究を進行した。ヒト胎盤由来のcDNAライブラリーを上述の26塩基対をプローブにして検索した結果、この塩基配列を特異的に認識し、結合する蛋白質をコードするクローンを得た。そのcDNAの塩基配列より推測した、タンパク質は、免疫系細胞の増殖時あるいは肝臓での急性期反応時に転写因子として働くNF-IL6と同一の因子であることが明かとなった。この因子に特異的な抗体を用いた解析によってヒト絨毛性腫瘍細胞では構成的に発現していることが判明した。また本転写因子の結合配列を破壊する変異体を用いた実験によって、NF-IL6がヒトエストロゲン合成酵素遺伝子の転写制御に実際に関わっていることを証明した。今後はこの因子と相互作用する核内因子群を同定し、本酵素遺伝子の転写制御機構の詳細をさらに解析していく計画である。
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