1.Fas抗原の発現及びDR抗原の発現との比較 Fas抗原は主として尿細管上皮の基底膜側に発現しており、集合管では横方向の細胞膜よりにも発現していた。移植後1週間で生検された検体では弱いながらも発現が見られ、生着期間中は常に発現していた。これはDR抗原の発現様式とほぼ同じであったが、Fas抗原の方が幾分強く発現しているように思われた。Fas抗原は上記以外に発現していることはなく、DR抗原が血管内皮細胞や浸潤細胞に強く発現していることとは対照的であった。 2.Apoptosisを示す核の検索 ApopTag Kit(Oncor社)による180bpのDNAの検索を試みた。劇症肝炎の例をコントロールとして比較してみたが、明らかに陽性を示す細胞は見られなかった。そこでFas抗原を強く発現する細胞の核及び細胞膜を含む細胞質について免疫電顕的検索を行なうことが急務と思われた。 3.Fas mRNA及びそれを刺激するγIFNのmRNAについてin situでの検索 現在のところ陰性の結果が出ている。検体が微量にしか採取できないので、RT-PCRの方法でmRNAの検出を行ないたいと考えられている。Fas抗原の免疫染色は明瞭であり、cross-reactingとは考えにくい。 bcl-2(Apoptosisを抑制する遺伝子産物) 免疫染色では浸潤リンパ球を除いて陰性であった。共同研究者の菅原氏は、胸腺組織についてFas陽性の場合はbcl-2陰性の結果を得ており、我々の研究結果についても妥当であると思われた。 5.Tリンパ球の活性化抗原(CD25及びCD69)の発現について 両者とも発現は観察されなかった。 平成6年度の研究成果:Fas抗原が細胞性拒絶反応によって尿細管上皮に発現する。しかし血管内皮細胞には発現しないという所見についての報告はこれまでになく、尿細管上皮は細胞性拒絶反応の標的となるが、血管内皮細胞はそれから免がれていると考えられ、通常染色標本及び電顕結果とも一致している。
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