研究概要 |
ヒト移植腎組織30検体(移植後1時間生検2、9日から7年9ヵ月までの間の生検26、摘出腎2)、コントロールとして腎癌による摘出腎の非癌部組織1検体についてFas,DR,bcl-2蛋白の検出をSAB法による免疫染色で、180bpDNAの検出をApopTag kitでおこなった。 結果 コントロール:正常腎では尿細管においてFas,DR,bcl-2の発現及びapoptosisをほとんど認めなかった。但し近位尿細管の特に直部でApopTag kitで明瞭に染まる核が点在した。 1 Fas及びDR抗原の検出:Fasは1時間生検腎ですでに尿細管に発現しており、近位、遠位及び集合管のいずれにも弱いながら発現をみとめた。但し個々の尿細管で、その強さには差があった。血管系及び浸潤細胞(僅少)には発現を認めなかった。移植後9日以後に生検されたものでは、拒絶反応による尿細管変性の強いものと弱いものとでは、前者の方がどの部位においても発現がやや強かった。尿細管の変性の強弱と拒絶反応のそれとはほぼ相関していた。これをDR抗原の発現と比較すると、両者はほぼ同様の傾向を示していた。但しDR抗原は血管内皮及び浸潤細胞の大多数にも強く発現していた。血管内皮には移植腎に限らずすべての臓器においてDR抗原が発現していることは周知の事実である。 2 bcl-2の発現:apoptosisを抑制するといわれているbcl-2の発現を検索した結果、1時間生検腎で近位尿細管に発現が比較的強く、他の尿細管ではほとんど認めなかった。その後の生検腎では尿細管の変性の強いものに明瞭な発現を認めた。浸潤細胞の大多数はbcl-2が強陽性であった。血管系は陰性。(前年度行った検索ではbcl-2の発現の評価が困難であったので今年度再検索した)。 3 180bpDNAの検出:どの検体においても明瞭な染色結果を認めなかった。 4 光顕及び電顕的観察:典型的な核の分断を見出せなかったのは、3の結果と一致する。 5 Fas及びFas mRNAを刺激するといわれるIFNγのin-situ-hybridizationはまだ成功していないので再度挑戦するつもりである。 結論 Fasの発現をもってapoptosisに至るものと予測することはできないことが分かった。bcl-2の発現が同時に存在していたことはapoptosisが抑制されていたことと一致するとおもわれる。
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