研究概要 |
1 研究目的:ヒト移植腎の拒絶反応による萎縮の過程にapoptosisが関わっているかどうか知るためにapoptosisと関連の深いFas抗原に着目し、その発現と拒絶反応との関連を追求した。 2 研究計画と方法:材料はヒト移植腎組織(移植後1時間生検2、9日から7年9ケ月までの間の生検26、摘出腎2)とコントロールとして腎癌による摘出腎の非癌部組織(1)の凍結及びホルマリン固定-パラフィン包理組織。方法は(1)Fas,DR,bcl-2蛋白のSAB法による免疫染色、(2)apoptoticDNAの免疫染色、(3)Fas及びIFN_γのmRNAの検出、(4)光顕的・電顕的観察との照合 3 結果:コントロール腎では尿細管に於いてFas,DR,bcl-2の発現及びapoptosisをほとんど認めなかった。しかし近位尿細管の特に直部でApopTag kitで明瞭に染まる核が点在した。以下は移植腎における検索結果を示す。 Fas抗原の発現:尿細管上皮、特に近位と集合管に発現が強かった。血管内皮には発現なし。浸潤細胞については検体の大多数で発現を認めなかったが、ある検体では弱いながら大多数の浸潤細胞に発現を認めた。bcl-2の発現:近位尿細管にのみ発現を認めた。浸潤細胞の大多数は強陽性であった。DR抗原の発現:Fasとほぼ同様の傾向を示したが、その程度はやや軽かった。血管内皮での発現は毛細血管で強く、太い血管では弱かった。浸潤細胞の多くは強く発現していた。apoptotic DNA:明らかに陽性と思われる核は尿細管に剥落した細胞の核のみで、他は薄く染まるのみであった。光顕的及び電顕的観察:apoptosisは観察されなかった。Fas及びIFN_<γ2>のmRNAのin-situhybridization:成功しなかった。目下RNA probeで再挑戦するばかりとなっている。 4 考察:Fasを発現していた細胞が同時にbcl-2を発現していたことはapoptosisがそれほど簡単には起きないことを示唆しているように思われる。実際にapoptosisが観察されなかったことはそれを裏ずけているようにおもわれる。またどの検体の血管内皮にもFasの発現がなかったのは興味深いことで、組織の基本構造がapoptosisや壊死に抵抗性にできているものと思われる。
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