抑制型転写因子GCFの消化器癌の浸潤・転移における役割とその遺伝子異常

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06670192
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 安井 弥 広島大学, 医学部, 助教授 (40191118)
• キーワード: 抑制型転写因子 / 消化器癌 / 浸潤・転移 / 遺伝子異常 / 細胞間接着分子 / 増殖因子

研究概要

GCF発現ベクター導入胃癌細胞株に関しては、GCFの発現量の異なる数種のクローンを樹立した。これらは,ヌードマウスにおいて、腫瘍を形成するが、その増殖が明かに抑制されることを確認している。GCF発現ベクター導入食堂癌細胞株、大腸癌細胞株については、現在準備中である。
消化器癌の浸潤・転移の分子機構については、胃癌において、細胞間接着分子カドヘリン-カテニン系の発現低下及び機能喪失が重要な役割を演じていることを明かにした。さらに、HGFが癌細胞の運動性を亢進させるとともに、カドヘリンの発現を抑制することを見いだした。尚、GCFは、HGFのレセプターをコードするc-met遺伝子の発現も調節している。また、胃癌細胞の浸潤・転移には、β1インテグリンおよび31kDaラクトース結合性レクチンが重要であることを明かにした。これらの分子の発現調節におけるGCFの働きは次年度の課題である。
GCFの遺伝子異常に関しては、胃癌についてGCF遺伝子領域(第2染色体p11)をD2S110プローブを用いたPCRミクロサテライト法で検索し、約17%にreplication errorを見いだした。したがって、GCF遺伝子自体が胃癌では不安定な状態になっており、それによって、欠失・変異などの機能喪失に関わる異常が生じている可能性が考えられた。GCF遺伝子の変異とreplication errorとの相関性を胃癌のみならず食堂癌、大腸癌においても検討し、癌の浸潤能・転移能との関係を検討していく予定である。

研究成果

• [文献書誌] Lotan R: "Expression of a 31-kDa lactoside-binding lectin in normal gastric mucosa and in primary and metastatic gastric carcinomas" International Journal of Cancer. 56. 474-480 (1994)
• [文献書誌] Kuniyasu H: "Expression of cripto in human gastric carcinomas: an association with tumor stage and prognosis" Journal of Experimental and Clinical Cancer Research. 13. 151-157 (1994)
• [文献書誌] Ayhan A: "Alterations and expression of bc1-2 gene in human gastric and colonic carcinomas" Japanese Journal of Cancer Research. 85. 584-591 (1994)
• [文献書誌] Kozako Y: "Expression of β1 integrin in human gastric carcinomas: correlation with histological type and tumor progression" International Journal of Oncology. 5. 225-230 (1994)
• [文献書誌] Tannapfel A: "Effect of hepatocyte growth factor on the expression of E-and P-cadherin in gastric carcinoma cell lines" Virchows Archiv(International Journal of Pathology). 425. 139-144 (1994)
• [文献書誌] Yasui W: "Expression of E-cadherin,α-and β-catenins in human gastric carcinomas:correlation with histology and tumor progression" Oncology Reports. 2. 111-117 (1995)
• [文献書誌] Tahara E: "Gann Monograph of Cancer Research No.42 Growth factors: cell growth,morphogenesis,and transformation" CRCPress(eds,Nakamura T and Matsumoto K), 178 (1994)
• [文献書誌] 安井弥: "Oncology-遺伝子の病気としての「がん」-" メジカルビュー社(黒木登志夫、垣添忠生・編), 230 (1994)