抑制型転写因子GCFの消化器癌の浸潤・転移における役割とその遺伝子異常

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06670192
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 安井 弥 広島大学, 医学部, 助教授 (40191118)
• キーワード: 抑制型転写因子 / 消化器癌 / 浸潤・転移 / 遺伝子異常 / 細胞間接着分子 / 増殖因子 / GCF

研究概要

1.GCFの遺伝子異常に関しては、胃癌についてGCF遺伝子領域(第2染色体q14)をD2S110プローブを用いたマイクロサテライト法で検索し、17%にreplication error:RER(+)を見いだした。この変化がどの段階でおこっているかを知る目的で、前癌性病変について検討したところ、胃腺腫では18%に認められたが、腸上皮化生には認められなかった。さらに、胃癌でD2S110領域でRER(+)を示す症例の多くは、D2S123(2p16)、D2S136(2p14-13)をはじめ他の染色体領域でもRER(+)を示した。従って、胃癌の発生の初期から遺伝子が全般的に不安定になり、GCF遺伝子自体に欠失・変異などの機能喪失に関わる異常が生じている可能性が考えられた。既にD2S123(2p16)、D2S136(2p14-13)等のRER(+)は、多重癌で頻発することが報告されており、今回の結果と併せて、GCF遺伝子領域を含む遺伝子不安定性は、癌のよい遺伝子マーカーと考えられ、転移能の相関とともに実践応用のシステム確立を検討中である。
2.血管新生を介して癌の浸潤・転移に関与するVEGF(vascular endothelial growth factor)の発現・分泌とGCFのレベルとの関係を胃癌培養株についてみると、例外はあるもののGCFのレベルの高い細胞株(MKN-28、HCSC39)ではVEGFの分泌は低い傾向にあった。VEGFの発現はEGFによって誘導されるが、GCFはこの誘導には影響を及ぼさなかった。
3.消化器癌の浸潤・転移の分子機構に関しては、細胞周期の正の調節因子であるサイクリンE遺伝子の増幅および過剰発現を胃癌・大腸癌において認め、それらは浸潤・転移と相関することを見いだした。

研究成果

• [文献書誌] Kitahara K: "Concurrent amplification of cyclin E and cdk2 genes in colorectal carcinomas" International Journal of Cancer. 62. 25-28 (1995)
• [文献書誌] Akama Y: "Frequent amplification of the cyclin E gene in human gastric carcinomas" Japanese Journal of Cancer Research. 86. 617-621 (1995)
• [文献書誌] Tahara H: "Telomerase activity in preneoplastic and neoplastic gastric and colorectal lesions" Clinical Cancer Research. 1. 1245-1251 (1995)
• [文献書誌] Kitahara K: "Expression of Stat91, Ras-independent signal transducer and activator, in human gastric carcinomas" International Journal of Oncology. 7. 907-911 (1995)
• [文献書誌] Kitahara K: "Expression of cyclin D1, CDK4 and p27^<KIP1> is associated with the p16^<MTS1> gene status in human esophageal carcinoma cell lines" Journal of Experimental Therapeutics and Oncology. 1. 7-12 (1996)
• [文献書誌] Semba S: "Microsatellite instability in precancerous lesions and adenocarcinomas of the stomach" Cancer. 77(in press). (1996)
• [文献書誌] 田原榮一: "現代病理学体系(補遺2)循環器消化管乳腺血液・造血器" 中山書店, 220 (1995)
• [文献書誌] 安井 弥: "DNA診断法" 金原出版, 1134 (1995)