1.抑制型転写因子GCFと消化器癌の浸潤・転移との関係:GCF発現ベクター導入胃癌細胞株を樹立した。ヌードマウス皮下に腫瘍を形成するが、その増殖が明かに抑制される。転移形成はコントロールの細胞株においても認められなかった。血管新生を介して癌の浸潤・転移に関与するVEGFの発現・分泌とGCFのレベルとの関係を胃癌培養株についてみると、例外はあるもののGCFのレベルの高い細胞株(MKN28、HCSC39)ではVEGFの分泌は低い傾向にあった。VEGFの発現はEGFによって誘導されるが、GCFはこの誘導には影響を及ぼさなかった。 2.GCF遺伝子の異常に関する検討:胃癌についてGCF遺伝子領域(第2染色体q14)をD2S110プローブを用いたマイクロサテライト法で検索し、17%にreplication error:RER(+)を見いだした。前癌性病変では、胃腺腫の18%にGCF遺伝子領域のRER(+)が認められたが、腸上皮化生には認められなかった。胃癌でD2S110領域でRER(+)を示す症例の多くは、D2S123(2p16)、D2S136(2p14/13)をはじめ他の染色体領域でもRER(+)を示した。従って、胃癌の発生の初期から遺伝子が全般的に不安定になり、GCF遺伝子自体に欠失・変異などの機能喪失に関わる異常が生じている可能性が考えられた。 3.消化器癌の浸潤・転移の分子機構に関する検討:胃癌において、カドヘリン-カテニン系、β1インテグリン、31kDaラクトース結合性レクチン等の異常が浸潤・転移に関与していることを明かにした。また、HGFが癌細胞の運動性を亢進させるとともに、カドヘリンの発現を抑制することを見いだした。尚、GCFは、HGFのレセプターをコードするcmet遺伝子の発現も調節している。さらに、細胞周期の正の調節因子であるサイクリンE遺伝子の増幅および過剰発現を多くの胃癌、大腸癌において認め、それらは浸潤・転移と相関することを見いだした。
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