本年度は胸腺腫および胸腺癌におけるアポートシスを解析するため、Fas抗原とbcl-2蛋白の発現を検索した。これらは種々の悪性腫瘍でアポトーシスを誘導あるいは抑制することにより腫瘍細胞のturnoverに関与しているとされているが、胸腺上皮性腫瘍についての知見は得られていない。 非浸潤性胸腺腫10例、浸潤性胸腺腫6例、胸腺癌7例(全例浸潤性)について、Fas抗原、bcl-2蛋白に対するモノクローナル抗体を用いてABC法により免疫組織化学的染色を行った。結果は、Fas抗原は非浸潤性胸腺種の7例(70%)に陽性であったが、浸潤性胸腺種では1例(17%)にのみ陽性で、胸腺癌では一部の角化細胞を除き全例で陰極であった。また、bc1-2蛋白は胸腺腫では非浸潤性、浸潤性いずれの腫瘍でも全例に陰性であり、胸腺癌では全例に陽性となった。 このように胸腺上皮性腫瘍におけるFas抗原とbcl-2蛋白の発現は対照的であり、アポートシスが本腫瘍の進展に関連していることが明かとなった。また、これらのマーカーが病期の異なる胸腺腫間および胸腺腫と胸腺癌の鑑別に有用となる可能性が示唆された。 他に、本腫瘍の癌抑制遺伝子p53異常については、研究がほぼ完成し、「胸腺上皮性腫瘍におけるp53蛋白の発現とp53遺伝子変異(英文)」の論題で近日中に投稿予定である。蛋白の免疫組織化学的染色と遺伝子のシークエンス解析に基づき、胸腺上皮性腫瘍では早期にp53遺伝子の変異が起こり、胸腺腫では病期の進展とともに異常p53蛋白陽性細胞が増加し、胸腺癌では、さらに顕著な異常蛋白の蓄積がみられることを明らかにした。
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