1.34例の胸腺上皮性腫瘍(非浸潤性胸腺腫12例、浸潤・転移性胸腺腫9例、胸腺癌3例)におけるp53蛋白の発現を免疫組織化学的に検索した。本異常蛋白は全例に認められたが、陽性腫瘍細胞を定量すると胸腺腫では病期の進行とともに陽性率が増加し、また、胸腺癌では病期の進んでいない(非浸潤)例でも高い陽性率が得られた。10例を選んでp53遺伝子のシークエンスを調べると、蛋白高発現腫瘍のみならず低発現腫瘍にも点突然変異が証明された。従って胸腺上皮性腫瘍では早期にp53遺伝子の異常が起こり、腫瘍のプログレッションとともにp53蛋白陽性細胞が増加するものと結論した。 2.非浸潤性胸腺腫11例、浸潤・転移性胸腺腫8例、胸腺癌10例につきFas抗原とbcl-2蛋白の発現を検索するとともにTUNEL法でアポトーシス細胞を可視化して定量した。その結果、(1)Fas抗原発現と胸腺腫の細胞型の関連が示唆された。(2)bc1-2蛋白は胸腺腫で全例に陰性、胸腺癌では全例に陽性となり、両者の鑑別に有用であった。(3)TUNEL法によるアポトーシス細胞陽性率は非浸潤性胸腺腫で浸潤・転移性胸腺腫より有意に高く、胸腺腫の進展におけるアポトーシスの関与が示唆された。 3.上記の結果(1)を発展させるべく、紡錘細胞型胸腺腫に焦点を絞ってその表現型を解析した。本腫瘍は臨床的に良性であり、重症筋無力症の合併は稀で、赤芽球癆を合併するなど非紡錘細胞型胸腺腫と異なる特徴を有する。上記Fas抗原に加えて、各種サイトケラチン、CDIa、細胞増殖関連抗原(PCNA、MIBI)などを免疫組織化学的に染色し、紡錘細胞型と非紡錘細胞型胸腺腫を比較した。その結果、紡錘細胞型は(1)Fas抗原発現の頻度が高く、(2)比較的低分子量のケラチンに富み、(3)CDIa陽性の胸腺皮質型リンパ球に乏しく、(4)腫瘍細胞増殖能は低いことが明らかになった。
|