研究概要 |
ヒト前立腺癌の病理組織学的多様性heterogeneityと癌遺伝子及び抑制遺伝子の関与を解明するため、全摘され組織学的mappingを行った癌組織9例を5〜 10分画に分けDNAを抽出した後、PCR-SSCP法及びSequence法にて以下の検索を行った。1.ras遺伝子の活性化は前年度のK-,N-rasに続きH-ras exon1及び2について検索した結果、9例中3例(33%)に認められた。1例は全腫瘍5分画の1分画のみにK-ras codon13(CGG→CGA)の変異があり、他の1例はK-ras codon13(CGG→CGA)とcodon61(CAA→CTA)の2種類の変異が部位を変えて認められた。残る1例は、腫瘍の半分の分画にH-ras codon61(CAG→CAT)の変異を認めた。2.p53遺伝子はexon4から9までを検索したところ3例(33%)に変異が生じており、1例は腫瘍の大部分でexon6,codon194にTTのdeletionがあり、また1例は8分画中1分画のみにexon7,codon253にAinsertionを認めた。残る1例は10分画中3分画にcodon8,exon281(GAC→GAA)のミスセンス変異を認め、この部分はK-ras遺伝子変異と重なっていた。このような変異は組織学的分化度よりも浸潤性を示す部位に多く見られた。p53 codon72におけるRFLPの検索ではinformative case4例について2例に部分的にLOHを認めた。(,Am.J.Pathol.)3.p16/CDKN2遺伝子についても同様に検索を行ったところ、2例に極めて限局した小さなfociにミスセンス変異を認めた。(Int.J.Oncol.)以上の検索で3遺伝子変異が同時に生じた領域とp53,p16遺伝子の両者に異常が蓄積された領域が各々一カ所見出された。この事からこれらの遺伝子変異は広汎に生じているのではなく、時として小さな領域に変異が生じ、腫瘍発生及び進展に何らかの役割を有すると推察された。また、本研究では症例数は少ないものの変異の頻度は高く、このような手法で解析した結果従来の遺伝子変異の頻度は実際には低く見積もられていると推定された。
|