研究概要 |
本研究では非小細胞性肺癌(Non Small Cell Lung Cancer,NSCLC)の獲得耐性・交差耐性現象におけるMulti-Drug Resistance 1(MDR1)遺伝子にコードされるP糖蛋白(P-Gp)の意義を、NSCLC臨床材料およびヒトNSCLCヌードマウス移植株で、分子病理学的に検討した。さらに、MDR1遺伝子/P-Gp以外の分子、特に抗癌剤多剤耐性関連蛋白質(Multidrug Resistance AssocIated Protein,MRP)の関与を検討した。MDR1遺伝子発現(-)の抗癌剤感受性肺癌株を担癌させた動物モデル系で、VCR(vincristin)耐性肺癌株を樹立した。この株は治療に用いなかったDOX(doxorubicin)に対する交差耐性を新たに獲得した。感受性肺癌株ではMDR1遺伝子の発現レベルは微弱であったが、獲得多剤耐性肺癌株ではMDR1遺伝子発現レベルが増強した。P-Gp機能を競合阻害するCyclrosporine Aを抗癌剤と共に投与したところ、感受性は回復した。これらの結果から、化学療法に伴うMDR1の発現増強によってヒト肺癌株が抗癌剤多剤耐性現象を獲得することを明らかにした。また、NSCLC症例の約31.7%にMRP遺伝子発現増強が認められた。MRP遺伝子発現が強く認められたのは扁平上皮癌症例で有意に多く、また、MRP遺伝子発現陽性例は陰性例より有意に生存率が低く、MDR1遺伝子発現レベルよりもむしろMDR related protein (MRP)遺伝子発現レベルが抗癌剤多剤耐性現象に関連している可能性が示唆された。今後は、選択的にMDR1およびMRP-mRNAを直接分子標的とするような分子治療法の開発がNSCLCの抗癌剤多剤耐性の克服に応用されると期待される。
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