研究概要 |
特発性心筋症20例(肥大型4例、拡張型様肥大型3例、拡張型13例)の剖検心における細胞外マトリックスの改変を解明する目的で、心筋内の型別コラーゲン(I型、III型、IV型、V型、VI型)分布とコラーゲン性タンパク分解酵素であるmatrix metalloproteinase(MMP)-1,-2,-3,-9、およびその阻害タンパクであるtissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)-1、-2についてそれらの局在を形態学的に調べた。その結果特発性心筋症ではその型によらず心筋細胞周囲(endomysium)から細胞外マトリックスの改変が生じ、これにはI、III、VI型コラーゲンが主に関与していることが示された。肥大型心筋症における心筋コンプライアンスの上昇には心筋細胞間のメッシュワーク線維症の他この線維症も関与していることが示唆された。拡張型心筋症では心筋細胞の変性・萎縮と線維症の分布が必ずしも一致しなかった。このことから、線維症は心筋細胞障害とは関係なく生じ、その機序もまた互いに異なるように推測される。拡張型様肥大型および拡張型心筋症ではMMP-1、2、9が発現されており、これらが協調して細胞外マトリックスの分解に関与している可能性が示唆された。TIMP-1、2は全症例で発現されていなかった。このことは心筋症では分泌されたMMPsは酵素活性を発現しやすい環境にあり、細胞外マトリックスの活発な分解が生じていることが示唆された。一方、生理的には心筋内に多くは存在しないVI型コラーゲンが心筋症では多量に沈着することは、VI型コラーゲンがMMPsに抵抗性であることを考えると、その意味は重要であると考えられた。なお本研究の目的の一部であった細胞外マトリックス代謝にあずかる間質細胞の同定は現在進行中である。
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