肝細胞では微小管が細胞固有の機能に重要な役割を果たしており、肝疾患と密接な関連を持つと推測されるため、培養肝細胞で微小管モーターによる微小管を起動とする膜輸送と細胞内膜系の構造・配置の機構について研究をおこなった。 1.細胞内小器官と微小管モーターとの結合を形態学的、生化学的に検討した。小胞体に局在するカルレチクリンの抗体とダイニン抗体を用いて、蛍光抗体法による形態学的研究を行なう共に生化学的に、細胞内膜分画には細胞質ダイニンが多量に結合しているという結果を得た。微小管関連蛋白であるMAP・4による微小管制御機構についても検討し、肝細胞では微小管量が多く観察に不向きなため、腎上皮細胞で行ったが、腎上皮細胞へのこの蛋白の顕微注射は微小管の増加を引き起こした。発現ブラスミドの注射では、同様の結果は得られなかった。また、膜分画にはMAP.4は存在しておらず、Anchor蛋白である可能性は少ない。 2.当初、エタノールを中心に肝細胞の異常について検討したが、3%でも小胞体・微小管の変化は生じず10%では細胞死に陥るのみで、モデルとして適当ではなかった。環境の変化の観点から細胞外のpHを変えたところ、ゴルジ装置の崩壊・分散が観察された。 以上より、肝細胞の膜系に多量のダイニンが存在することが明かとなり、小胞体、ゴルジ装置にもダイニンが局在することが明かとなり、肝細胞の膜系の維持に微小管モーターが重要な役割をはたしていることが判明した。また、これらの機構は細胞内pH低下により阻害され、ゴルジ崩壊を引き起こすと考えられた。
|