研究概要 |
鉄キレートである鉄NTAをラット,マウスへ長期投与すると高率に腎細胞癌が発生する.この鉄NTA発癌系では,鉄関連ラジカルによるDNA修飾が発癌に関与している可能性が示唆されている.本研究の目的は,鉄NTA誘発腎癌におけるras,p53遺伝子変異の有無を検索し,観察された変異がラジカルによるDNA装飾で説明できるかを検討するものである. 鉄NTA投与ラットの腎癌組織(凍結材料および,パラフィン包埋病理標本)よりDNAを抽出し,K-,H-,N-rasおよびp53遺伝子をpolymerase cain reaction(PCR)増幅した.ras遺伝子についてはdirect sequencingを行い,point mutationのhot spotであるexonl,codon 12,13およびexon 2,codon 61の変異の有無を検討した.またp53遺伝子についてはsingle strand conformation polymorphism(SSCP)法によりshiftの見られた腫瘍について,direct sequencingを行い,点変異の有無を検索した. 平成6年度には11腫瘍について検討を行ったが,K-,H-,N-ras遺伝子については点変異は全く認められなかった.また,p53遺伝子については1腫瘍においてexon6,codon 199のC→T変異が認められた.ラジカルによるDNA修飾ではG→T変異が発生するとされており,今回観察されたC→T変異とは一致しない. 現在までのところ,鉄NTA発癌系にはras,p53遺伝子変異の関与はないと考えられるが,更に腫瘍例数を増やし検討中である.
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