研究概要 |
鉄キレート化合物である鉄NTAを実験動物に投与すると高率に腎細胞癌が発生する.この鉄NTA発癌に鉄関連ラジカルによるDNA修飾が関与している可能性がある.本研究は鉄NTA誘発腎癌におけるrasおよびp53遺伝子変異を検索し,(1)これらの腫瘍関連遺伝子の発癌過程への関与と、(2)ラジカルによるDNA修飾が変異を誘発している可能性について検討した.本年度は昨年度とあわせ16個の鉄NTA誘発腎癌について検討を行った。K-,H-,N-ras遺伝子についてはpolymerase cain reaction(PCR)増幅後direct sequencingにより変異を検索した.またp53遺伝子exon5,6,7についてはPCR-SSCP法により変異のscreeningを行い,さらにsequencingで変異の有無を検討した.K-,H-,N-ras遺伝子の点変異のhot spotであるexonlのcodon12,13およびexon2のcodon61いずれにも変異は認められなかった。p53遺伝子の検索では2腫瘍において、exon6にアミノ酸置換をともなう点変異が認められた。これらの2変異はいずれもconserved domain外にあり,またヒト腫瘍で変異が報告されていないコドンであった。以上より鉄NTAによる腎癌の発生にはras・p53遺伝子の変異が関与している可能性は低いと考えられた。鉄関連ラジカルはDNA中のグアノシンを酸化し8ヒドロキシグアノシン(80HdG)を生じ、この修飾によりG→T,G→Aなどの塩基置換が発生すると報告されている。今回p53遺伝子で観察された変異はいずれもC→T(G→A)置換であり8-OHdG形成によるものとして矛盾しないが、変異の発生頻度が低く、またG→A置換は他の塩基修飾でも生じ特異性が高くないことからラジカル修飾による変異と結論することはだきない。
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