研究概要 |
私達はガングリオシド糖鎖の合成に必須なβ1,4GalNAc転移酵素(GM2/GD2合成酵素)のcDNAを初めて単離したが、これをプローブとして、胎生期および成人マウスにおける本酵素遺伝子の発現を、in situ hybridizationおよびNorthern blot法により検討した。 成人マウスにおける詳細な発現解析の結果、本遺伝子は海馬、歯状回、小脳プルキンエ細胞、嗅脳の僧帽細胞および大脳皮質ニューロンに強く発現していることが判明した。 さらに発現細胞の同定のための海馬CA3領域へのカイニン酸の注入や歯状回へのコルヒチンの注入を行った後、本遺伝子の発現を検討したところ、ニューロンの破壊・消滅に伴い、mRNAのシグナルも消失することが判った。破壊部位に、反応性に増殖しているグリア細胞においてはmRNAシグナルがほとんど検出されず、本遺伝子がニューロンに主に発現していることが示された。また胎性各時期の本遺伝子の発現をNorthern blotとin situ hybridizationで検討した結果、胎性14日より低レベルの発現が認められ、その後は徐々に上昇し、出生時にピークを示した。この発現パターンは同時に解析したα2,8シアル酸転移酵素(GD3合成酵素)遺伝子の発現と極めて対照的であった。しかし脳内各部位における発現パターンを観察すると、脳全体のmRNAレベルの変化と必ずしも同様ではなく、部位によって独自の発現過程を示す場合も多いことが判明した。 今後、神経損傷後の修復過程における糖鎖発現と、糖鎖合成酵素遺伝子の発現の検討が不十分であったので、カイニン酸やコルヒチン局注時の、本転移酵素遺伝子と、関連ガングリオシドの発現の変化や、脳虚血時の遺伝子の発現を解析したい。また培養神経細胞における本遺伝子や糖鎖発現を検討するとともに、強制発現の効果を解析したい。
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