今年度はヒト内在性レトロウイルスが持つプロモーター活性を検出する試みを行なった。ヒト内在性レトロウイルス様遺伝子のクローン4-1のLTR相当領域の種々のDNA分画をルシフェラーゼをレポーターとする発現ベクターに組み込みそのプロモーター活性を検討した。当初、使用した培養細胞はクローン4-1のメッセージが発現している細胞(絨毛上皮腫)であったがDNAのtransfectionの効率が悪いため、今回はメッセージが発現していないヒトT細胞リンパ腫細胞であるJurkat細胞を用いた。これまでに10個のDNA断片を得て、それらのプロモーター活性を検討した。LTR全長を含む1241bpのDNA断片は全く活性を示さなかった。この断片から3端を約440bpを除去した断片(約800bp)は対照に比べて66倍の強い活性を示した。更にこの分画より約180bp除去すると活性は2.8倍となった。従ってこの約800bpのDNA分画に強いプロモーター活性が存在していることが明らかとなった。これらの結果は不完全な翻訳配列しか持っていないヒト内在性レトロウイルス様遺伝子、その中でもLTR領域に相当する部位には充分なプロモーター活性が存在していることを示している。しかし生体においては他の発現調節領域との関連で発現されないという結果が得られた。本年度の研究成果はヒトのLTR領域にも強いプロモーター活性が存在することが示されたことである。来年度はこの発現調節領域に結合する蛋白の解析を試みる予定である。
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