今年度は、自然発生腫瘍における遺伝子異常に焦点を当てて解析を行った。MinマウスはAPC遺伝子に変異を有するため発癌剤処理なしに消化管に腫瘍を多発することが知られている。このMinマウスと近交系間のF1(F1-Min)に発生した腫瘍85例(大腸20例、小腸61例、盲腸4例)及び親系統のB6-Minに発生した腫瘍36例(大腸20例、小腸15例、盲腸1例)について病理組織像及び遺伝子異常の解析を行い、DMH誘発大腸腫瘍との比較を行った。 1.Minマウスに発生した腫瘍は大半が分化型腺癌及び腺腫であり、組織像においてDMH誘発腫瘍との間に差異は認められなかった。 2.Minマウスにおける腫瘍の90%以上に野生型APC遺伝子の欠失が認められた。発生部位や遺伝的背景による欠失頻度への影響は認められなかった。 3.p53遺伝子エクソン5-8及びK-、H-、N-ras遺伝子エクソン1、2における突然変異をPCR-SSCP法により解析したが、Minマウスにおける腫瘍121例には全く異常は認められなかった。また、p53遺伝子イントロンにおける多型を利用してLOHの有無を検索したが、p53遺伝子には全くLOHは認められなかった。 これらの結果から、Min変異による腫瘍とDMH誘発腫瘍では遺伝的背景が共通であるにも関わらず、関与する遺伝子異常にかなり大きな相違があることが明らかになった。
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