日本産肺吸虫類の系統類縁関係については、まだ不明な点が多い。本研究では、進化の速度が速く、しかも母性遺伝する、ミトコンドリアDNAの塩基配列を用いて、可能な日本産肺吸虫の系統樹の作成を試みた。今回使用した種類は、ウエステルマン肺吸虫(対馬産:3倍体)、宮崎肺吸虫(南国産)、大平肺吸虫(城崎産)、佐渡肺吸虫(佐渡産)の4種である。まず、各サンプルは、TEバッファーでホモジナイズし、フェノール/クロロフォルムで2回、クロロフォルムで1回処理した後、エタノール沈殿により、DNAを回収した。回収したDNAはテンプレートとして、PCRを行なった。プライマーは、5′-TTT TTT GGG CAT CCT GAG GTT T-3′及び5′-TAA AGA AAG AAC ATA ATG AAA AT-3′である。PCRの条件は、95℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 3分、30サイクルである。増幅したDNA断片はチトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)領域の395ベースペアである。各増幅断片はpGem系のTAベクターにクローニングし、各種ごとに3クローンづつシーケンスを行なった。シーケンスは、ABIのダイプライマー法を用いて、ABI 373Aオートシーケンサーにより行なった。系統樹の作成は、Paupの最大節約法及びClustal Vの近隣接合法を用いて行なった。その結果、2つの異なる方法とも同じ結論に達した。即ち、大平肺吸虫と佐渡肺吸虫が一つのクラスターを形成し、次に宮崎肺吸虫がそのクラスターといっしょになり、ウエステルマン肺吸虫は、一番離れたグループであることが分かった。この結果はアイソザイム分析の結果と一致した。
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