本研究は蠕虫感染宿主に特徴的なIgE産生亢進の生体防御における役割を明らかにすることを目的とした。とくにマウスにおけるIgE産生の強弱を決定するIgE産生量規定遺伝子に注目し、これと蠕虫感染防御能との関係を解析した。この遺伝子は刺激抗原に関係なくIgE産生のみを特異的に制御し、ヒトのアトピー遺伝子に対応するものである。実験は、まず蠕虫感染防御のIgE依存症について行われた。IgE依存症は、IgE産生量規定遺伝子によって区別されるIgE高応答性と低応答性マウスとその各々のIgE欠損マウスとで各種蠕虫感染に対する防御能を比較することで判定した。感染防御のIgE依存性はマレー糸状虫、Heligmosomoidesではみられなかったが、小形条虫および旋毛虫に対して認められた。旋毛虫感染では感染防御のIgE依存性が、IgE高応答性マウスの場合に限ってみられた。またマウスに旋毛虫抗原と結合能をもたないIgEを多量にくり返し移入し、抗旋毛虫IgE抗体のIgE受容体への結合を阻害した場合の旋毛虫感染防御能を検討したところ、IgE受容体への結合阻害による感染防御能の抑制は、IgE高応答性マウスにみられ、低応答性にはみられなかった。次にIgE産生量規定遺伝子とIgE依存性感染防御の関係をさらに明らかにするため、高および低応答性マウスの交配によりNS世代を得て、旋毛虫の感染を行った。旋毛虫感染N2世代マウスのIgE産生は高低半数ずつにわかれ従来知られる単一遺伝子の支配が確認された。このIgE産生量規定遺伝子によるN2世代マウスの高および低応答性の発現は、旋毛虫感染防御の強さと逆相関していた。この知見は、IgE産生量規定遺伝子がIgE依存性感染防御遺伝子として働いていることを示唆している。換言すればIgEの機能が本来蠕虫感染防御に向けられていることが想定される。
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