L.pallidum(フトゲ)中のRtの分布を電顕で調べた。分布密度は臓器間で大きく異なり、幼虫の唾液腺、成虫の唾液腺、生殖巣で最大であった。また、Rtは精巣中にも見られたが、精子形成の過程で細胞外に排除されることが観察された。これらの観察は、Rtのヒトへの伝播、Rtが雌親からのみ垂直伝播することと一致する。 フトゲの卵にGilliam株を顕微注射し飼育した結果7匹の成虫を得たが、そのいずれもRt陰性であった。また若虫にRtを注射したが、成虫期までRtを保有するものは認められなかった。一方、マウスにフトゲより分離されたRt株を感染させ、フトゲを吸着させたところ、25%が少量ではあるが成虫期までRtを保有していたが、フトゲ由来ではないGilliam株を感染させた場合は全くRtを保有していなかった。この結果はツツガムシ種毎に共生の成立しやすいRt株があることを示唆するものかもしれない。今後はこのことを考慮した上で実験を行う予定である。 抗生物質を投与したマウスにRt共生L.fletcheri(P)を吸着させRtを排除し飼育したところ、P、F1、F2での雌の割合はそれぞれ100、100、1%となった。これよりRt共生L.fletcheriに雄が生じないのはRt共生のためであること、幼虫の時点で産む子の性が決定されていることが示唆された。F2で性比が大きく逆転したことは興味深く、新たな問題が提起された。 ほぼ100%の精度でツツガムシ中のRtの存否を確認できる蛍光顕微鏡観察の方法を開発し、L.arenicolaでのRt伝播率を調べた。伝播率は雌親ごとに60から100%と大きく異なり、産卵数の多いほど伝播率の高かった。また、飼育中のツツガムシ3種それぞれに1血清型のRtが共生していることが判明した。これは1個体に複数の型が共生しているという従来の知見と相反するものである。
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