研究概要 |
寄生吸虫類のシステインプロテアーゼは腸管の消化酵素としての機能を担うばかりでなく虫体外に吐出される重要な抗原となることが知られている。昨年度は、肺吸虫のシステインプロテアーゼの生化学的精製、N末端アミノ酸残基の決定、ヒト肺吸虫症の免疫診断への利用、モノクローナル抗体の作製などについて成果を得た。本年度は,その成果を踏まえて以下の項目について研究を進めた。 1,精製肺吸虫システインプロテアーゼのN末端アミノ酸残基のデータからプライマーを作製し,通常の遺伝子工学的手法により、大腸菌で抗原性をもつ融合タンパク質を得た。この融合タンパク質は、免疫診断の特異性においてnativeなシステインプロテアーゼより劣っていた。 2.システインプロテアーゼの阻害剤であるシスタチンを利用したアフィニティークロマトグラフィーにより、one stepで肺吸虫システインプロテアーゼ抗原を分画した。この抗原は他の生化学的分画法で複数ステップ精製した肺吸虫システインプロテアーゼと類似の高い免疫診断の反応性と特異性を与えた。 3.ラットが好適宿主であるいは非好適宿主である肺吸虫の感染、幼虫期で死滅するX線照射メタセルカリアでの感染について、それぞれの場合における抗肺吸虫システインプロテアーゼ抗体の感染経過に伴う産生変動を明らかにした。さらに肺吸虫システインプロテアーゼに対するlgE抗体が産生されることを確認した。 4.抗システインプロテアーゼ抗体がシステインプロテアーゼの酵素活性を阻害するか否かを検討した。感染ラット血清の抗体では酵素活性に全く影響を与えないこと、肺吸虫患者血清の抗体では、一部の患者血清のみに部分的に酵素活性を阻害する血清があるに過ぎないことを示した。現在、酵素活性を阻害する抗体を産生誘導する方法を検討している。
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