研究概要 |
カの体液レクチンが体内に侵入した寄生中類のメラニン化に関与している事が示唆されて以来、体液レクチンが異物認識機構に係わっている可能性が強く示唆されている。カなどの媒介昆虫類の生体防御機構の研究は異物の周囲にメラニンが沈着する反応(プロフェノールオキシダーゼ(proPO)活性化系)に着目した研究が多く、異物認識機構に関するアプローチがほとんど見られていない。本課題ではこの問題を解明すべく、カ体液レクチンの生物的役割を明らかにするためにオオクロヤブカ体液よりレクチンの精製を試みた。今まで,オオクロヤブカ約7万匹より60ml程の体液を採取し,種々のクロマトグラフィー樹脂に対する結合・解離を調べた。その結果,DEAE樹脂に結合性があること,および,鉄イオンにアフィニティーが有ることが明らかになった。ゲルろ過,DEAEクロマトグラフィーより部分精製を試みたところ,Cタイプレクチンの候補と思われるバンドが数本検出された。その後,高速液体クロマトグラフィーで精製を進めたが,各分画にはヒト赤血球に対する凝集活性が認められていない。一方、この液体中はヒト赤血球に対して溶血活性を示すが,この溶血には体液レクチンが関与している事が示された。さて,フィラリア幼虫は非感受性カの発育部位で組織崩壊を起こす事が知られている。in vitroでフィラリア幼虫と体液とを20時間反応させたところ,未処理体液と反応させた幼虫は約半数が部分的な組織崩壊を起こしていた。しかし,熱処理体液(45C),EDTAおよびセリンプロテアーゼ阻害剤添加体液では殆ど組織崩壊が起こらなかった。この事より,体液中の溶血活性系と幼虫組織崩壊因子とは何らかの関係があると推察された。非感受性の本質が何であるかを明らかにする広範な研究が必要と思われる。
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