前年度の研究によりExtended-spectrum(ESP) β-lactamaseをコードする遺伝子(bla_<ESP>)が、プラスミド上のインテグロン構造にあることが明らかになった。従って、緑膿菌におけるbla_<ESP>遺伝子のプラスミド間での伝播による耐性化と、かつ治療薬による耐性菌の選択が、ESP β-lactamase産生緑膿菌の蔓延をうながすことが予想された。 今年度はbla_<ESP>遺伝子の伝播による、ESP β-lactamase産生緑膿菌の院内蔓延例を疫学的に証明した。 1. 1989年から五年間にわたって一病院の異なる患者より分離された、イミペネム(IPM)耐性緑膿菌9株を調べたところ、カルバペネム類、第三世代セフェム類などの抗緑膿菌剤に耐性化しており、全ての株からESP β-lactamaseが検出された。 2. 9株全ての血清型は同一(B)であり、全ての株から、同一のグループ(P-9)に属するDNAサイズ約44kbの伝達性プラスミドが検出された。bla_<ESP>遺伝子はこのプラスミド上に特定された。 3.染色体DNAのパルスフィールド電気泳動パターンからも耐性菌9株は由来を同じくするものと結論された。更に5年の間には、bla_<ESP>遺伝子に染色体β-lactamaseの活性増加と外膜の変異によるカルバペネム透過阻止が加わり、β-lactam剤に対する耐性度が上昇し、高濃度、多剤耐性緑膿菌へと進化し、院内での蔓延が惹き起こされるに至っている。
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