C.difficileの毒素産生機構を栄養素の観点から解明する事を目指し、先ずアミノ酸について3菌株を用いて検討した。18種類のアミノ酸を含む合成培地を基礎培地とし、各種アミノ酸欠損・添加実験により、十分な毒素産生にはバリン、システイン、トリプトファン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、スレオニンが必須であることが分かった。また、バリン、トリプトファン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシンを基礎濃度の6倍量、グリシン、スレオニンを基礎濃度の2倍量、システインを基礎濃度量に含む合成培地(6xMADM)が毒素産生に良好であった。6xMADMにおける毒素産生を、毒素産生に優れた複合培地m-BHIと比較したとき、被験20株中13株では両培地で同程度の毒素産生が認められた。即ち、C.difficileの毒素産生には上記9種類のアミノ酸が特に重要であることが分かった。次に、6xMADMを用いて、ビタミンの毒素産生への効果について検討した。被験3株共に、被験9種類のビタミン中、パントテン酸、ピリドキシン、ビオチンが菌の発育、毒素産生に必須であるが、2株についてはビオチンは毒素産生増強効果(ビオチン効果)を示す事が分かった。KZ 1647株を用いビオチン濃度と菌の増殖および毒素産生について検討した結果、ビオチン濃度の減少と共に、菌の増殖は減少するが、毒素産生は増加し、特にビオチン濃度0.05nMの時顕著に増加した。ビオチン不足条件下における毒素産生の時間的経過はビオチンが十分量存在する場合と相違は認められなかった。このビオチン効果は被験C.difficile19菌株中18株において認められ、本現象は本菌に普遍的であることが分かった。今後本現象の発現機作、腸炎発症の関わりについて検討したい。
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