研究概要 |
エルトール型コレラ菌の溶血毒非産生性変異株の一つNF404株でのTn5の挿入部位は構造遺伝子(hlyA)やその周辺領域にはないことが確認され,Tn5挿入領域をクローン化し,塩基配列を決定した結果,Tn5挿入部位に大腸菌のlysophospholipase L2(PLDB)と全領域に渡り高い相同性をもつコレラ菌のlysophospholipase L2の構造遺伝子lypAを見い出した. 今年度の研究で我々はNF404株では溶血性の欠失,フォスフォリパーゼ活性の低下ばかりでなくコレラ毒素の産生が完全に消失していることを見い出した.このことを確認するために挿入変異株を作製したところ,この株でもコレラ毒素の欠失が確認された.また,コレラ毒素高産生の569B株に対してもlypA挿入変異株を作製したところ,毒素産生性は1/1000以下の検出限界以下に低下していた.また,これらのlypA変異株をもちいてウサギ実験下痢試験を行ったところ,変異株は下痢活性を失っていた. コレラ毒素産生性は転写因子ToxRが関与していることが知られている.そこでToxR遺伝子(toxR)をクローン化し,それをプローブとしてlypA挿入変異株と親株についてサザン・ハイブリダイゼイションを行ったところ,反応するDNA断片は変異株,親株で異なっていた.このことはlypAはtoxRの近辺に存在していることを示している.現在,挿入変異がToxRの発現を低下させたのか,LypAの産生消失が直接毒素産生に影響しているのかを,エルトール溶血毒の発現機構との関係を明らかにしながら,鋭意研究中である. 以上の研究から,今までToxRのみしか知られていなかったコレラ毒素発現機構にエルトール溶血毒発現にも関与する未知の因子が強く示唆された.
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