研究概要 |
生体は種々の微生物の感染に対して,まず非特異的防御機構によって対抗している。これが破れると液性免疫や細胞性免疫などいわゆる特異的な防御機構が働き病原体の侵入を防いでいる。微生物のなかでもグラム陰性菌は,細胞壁の最外層にリポ多糖を構成成分とする内毒素(エンドトキシン=Et)を保有しており,Etは種々の細胞を刺激してケミカルメデイエータやサイトカインなどを遊離させ発熱や炎症,さらにエンドトキシンショックなどを引き起こす。著者は,ウサギ顆粒球からとEtと結合しこの活性を中和する18kDaの新しい蛋白を発見し,CAP18と呼んできた。その後,cDNAクローニングによって全一次構造を決定した。この蛋白は29個のシグナルペプチドに続いて142個のアミノ酸残基からなる分子量16.6kDaの塩基性蛋白であった。さらに,CAP18のC-末端37個のアミノ酸残基からなるペプチドはEtとその結合やその中和,さらに抗菌活性のドメインであることを明らかにした.Etの活性としてはin vitroでのEt刺激によるマクロファージからの組織因子,一酸化窒素およびIL-1,IL-6やTNFの産生などを抑制し,さらに,in vivoでのEtの致死作用をもブロックした。グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対して抗菌活性を示した。また,ヒトの顆粒球からCAP18ファミリーに属する蛋白のcDNAを得た。ヒトの蛋白は140個のアミノ酸残基からなっており,C末端32残基がEt結合ドメインであった。ヒトのペプチドもEtの活性を中和し、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)およびポリミキシンB耐性の肺炎桿菌に対しても抗菌活性を示した。ウサギおよびヒトのペプチドはいずれも両親媒性のα-ヘリックスの構造をもっており,ペプチドとEtは共有結合および疎水結合を介して結合し,Etの中和や抗菌活性を示すものと思われる。これらペプチドは低分子量(5,000-6,000)であり,毒性が低いなどのメリットがあり,臨床応用が期待される。
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