細胞表面への特異的な粘着様式を指標にして、乳幼児から分離した下痢症大腸菌を解析したところ、新しい表現型を示す菌株(D2株)を見いだした。従来の下痢症大腸菌の細胞表面への粘着様式は、localized adherence、aggregative adherence、diffuse adherenceに大別されていたが、D2株は粘着様式は全く新しいもので、clustered adherenceと命名した。D2株は感染表面で細胞のmicrovilliを伸張させ、伸張したmicrovilliで被われてしまうことから、“膜内感染"といった新しい感染様式であると結論した。D2株はさらに、細胞の細胞骨格を形成する蛋白(アクチン)を自身の周囲で重合させ、アクチンカプセルを形成した。アクチンカプセル形成は、D2株を宿主(ヒト)の粘膜局所免疫の攻撃から守り、(小児)腸管粘膜での持続性感染を可能にしている構造であると推定された。同じく小児に持続性下痢を惹起する腸管病原性大腸菌(EPEC;localized adherenceを示す大腸菌)の場合にも、D2株と同様な“膜内感染"とアクチンカプセル形成を確認っすることができた。“膜内感染"とアクチンカプセル形成は、下痢症大腸菌の重要な感染様式の一つであると考えられる。 尚、本研究年度に、インドとバングラデシュを中心に新しい細菌(Vibrio cholerae O139)によるコレラが大流行し、その研究が細菌学領域で緊急の課題となった。本研究費を新型コレラ菌の研究にも使用し、成果を3つの国際誌に発表した。
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