毒素原性大腸菌が産生する耐熱性下痢原因毒素にはSTIとSTIIの二種類が存在する。ともに分子内にジスルフィド結合を有しており、この結合の形成は両STの活性構造の構築には不可欠である。しかしその結合過程は不明であった。今年度はこの過程の解明に取り組み、以下の事を明らかにした。1.STIの3本の分子内ジスルフィド結合は大腸菌のペリプラズム酵素であるDsbAで架橋されること。2、STIの前駆体のプレ領域中のシステイン残基は、LsbAが成熟領域に作用してジスルフィド結合を形成する際に必須であること。3、プレ領域中のシステイン残基を置換すると、不活性な前駆体STIがペリプラスムに貯溜する。これはプレ領域中のシステイン残基がジスルフィド結合が形成される以前の成熟ST領域の構造を規定するのに重要であることを示している。4、STIIは精製した抗体を用いればELISAで検出できること。5.4のELISAをもちいて変異株から培地中に分泌されるSTII量を調べた。その結果dsbA遺伝子を欠損した変異株ではSTIIが産生されないこと。6.5の結果はSTIIのジスルフィド結合がDsbAタンパクにより架橋されていること、およびジスルフィド結合が架橋されていないSTIIはプロテアーゼで分解されることを示している。7、6の事実をさらに明らかにするため、システイン残基を置換した変異STII産生株を作成し、パルスラベル実験で解析した。その結果、STIIIの21-36位間のジスルフィド結合の形成がSTIIの安定構造の構築に最も大切であることを明らかにした。
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