赤痢菌が上皮細胞の中に侵入したときに発現する遺伝子を探す目的で、Tn5-lac(β-ガラクトシダーゼ)トランスポ-ソンによる変異株の作製をおこなった。用いたトランスポ-ソンは挿入された遺伝子と転写融合をおこすようになっているので、未知の遺伝子の発現状態をみることが出来る。D群赤痢菌にTn5-lacをもつ温度感受性プラスミドを形質転換させ、42度でカナマイシン耐性かつX-gal平板上で青いコロニーを作るものを選択した。その青いコロニーのうち、生体の内部と予想される条件下でのみ発現する(つまり青いコロニーになる)コロニーを選択した。まずは、赤痢菌は貧食胞のなかに一時的に存在するので、貧食胞の中の環境条件つまりpHの変化で発現の変わるものを選択した。その結果、酸性の条件下でのみ発現し、中性条件ではほとんど発現しないもの、および逆に酸性条件下ではほとんど発現しないが、中性条件下でよく発現がみられるものがとれた。後者について、Tn5-lacが挿入しているDNA領域をクローニングし、その塩基配列を決めたところ、侵入性遺伝子群の正の調節遺伝子virFにあたることが判明した。つまり、virFの遺伝子は外界のpHの変化に対応し発現が調節されていることが明らかになった。その他にvirGの遺伝子にTn5-lacが挿入しているものも分離されたが、これはvirGの発現がvirFに依存していることを考えあわせると理屈の合うデータであった。これらの結果から、Tn5-lacの系は、種種の条件下で発現の変化する遺伝子を分離するのに適する実験系であることが分かった。
|