研究概要 |
研究の実績 1.C型インフルエンザウイルスのヘムアグルチニン・エステラーゼ(HE)糖蛋白質分子上のレセプター結合部位を同定する目的で,我々は先ず,レセプター結合能に異常を持つ抗HE単クローン抗体抵抗性変異株のアミノ酸置換部位を同定し,178,186,187,190,208,212,226,245,266および283位のアミノ酸がレセプターとの結合に関与していることを明らかにした。 2.次に我々は,レセプターとの高親和性を獲得したHMV-II細胞馴化変異株のアミノ酸置換部位を同定し,上記10箇所の中でもとりわけ212と283位のアミノ酸がレセプター認識に深く関与していることを明らかにした。この時点で我々は,由来の異なるレセプター認識能変異ウイルスに生じていたアミノ酸置換部位の全てが,HE分子上に存在する3つのvariable regionのうちの第2番目(180〜214位)かその近傍に集中していたことから,HE糖蛋白質分子上のこの領域がレセプター認識に関与する唯一の部位であると考えた。 3.しかしながら本年度の研究により我々は,HE遺伝子の系統樹で一つの系統(山形/81系統)に属するいくつかのウイルスが同じ系統の他のウイルスとは異なり,特異な赤血球凝集能を示すことを見い出した。すなわち,(1)C/山形/4/88は鶏赤血球を凝修する活性が弱いこと,(2)C/山形/10/89,C/山形/26/81は,鶏赤血球や新鮮マウス赤血球を殆ど凝集しないにもかかわらず,グルタールアルデヒドで固定したマウス赤血球を良く凝集すること,(3)C/奈良/2/85は,鶏赤血球を普通に凝集するにもかかわらずマウス赤血球に対しては10/89や26/81と同じ挙動を示すことである。 4.このような凝集能の異常を分子レベルで理解するため,HE遺伝子の塩基配列を株間で比較したところ,凝集能の異常が第3番目のvariable region(331〜347位)に生じたアミノ酸置換に基づくことが強く示唆された。この成績は,C型ウイルスのレセプター認識には,第2番目のみならず,第3番目のvariable regionも関与していることを新たに示すものである。 今後の課題 1.レセプター認識部位として新たに浮かびあがってきた第3番目のvariable regionのアミノ酸のレセプター認識における役割を,部位特異的変異導入法で明らかにする。 2.C/山形/10/89,C/山形/26/81及びC/奈良/2/85が,マウスやラットの新鮮赤血球を凝集しない理由を明らかにする。
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