研究概要 |
ヒトポリオーマウイルスJC(JCV)はヒト集団に広く蔓延しているが,時として進行性多巣性白質脳症(PML)を惹起する。これまでJCVがどのようにしてPMLを発症させるか全く不明であった。しかし最近、体内に持続感染しているJCVが変異して、PMLを発症させる強毒JCVになるという説が有力になっている。1990年に我々は、その依り所となった発見をした。即ち、健常人と非PML患者の尿から初めてJCV DNAを直接クローニングした。当時JCVは専らPML患者の脳からクローニングされていた。PML患者脳からクローニングされたJCV(PML型JCV)の特徴は、その調節領域が極めて多様であることにある(この調節領域をPML型調節領域と言う)。これに対して、我々が尿からクローニングしたJCV DNAの調節領域は一定の構造を保っていた(これを原型調節領域と呼ぶ)。我々は、原型調節領域とPML型調節領域の構造を比較し、後者は前者から塩基配列の再編成によって作り出せることを見いだした。本研究の目的は、新たにPML患者の脳からJCV DNAをクローニングし、原型調節領域とPML型調節領域との関係をさらに検討することである。4名のPML患者の剖検脳からJCV DNAをクローニングすることに成功した。患者の内訳は、日本人3名、アメリカ人1名であった。全ての患者から複数のクローンが得られた。これらのクローンの構造を解析した結果、次のことが明らかとなった。1.調節領域の構造は患者毎に異なり、また既知のPML型調節領域とも異なった。2.全ての調節領域は原型調節領域から塩基配列の再編成によって作り出せることが確認された。以上の結果は、持続感染しているJCVの調節領域に再編成が無規則的に起きて、いろいろな変異ウイルスができ、そのうち中枢神経系でよく増えるウイルスが選択されたことを示唆している。現在、原型調節領域とPML型調節領域との機能比較を、アデノウイルスベクターを用いて検討している。
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