ワクチニアウイルス構成タンパクに対するモノクローナル抗体を用いた解析から、ウイルスの血球凝集素(HA)とVP23Kが、それぞれ細胞への吸着活性、および侵入(細胞融合活性)に直接関るタンパクと想定している。この2種のタンパクが反応する細胞成分の同定を目的とする解析を行っており、現在までに以下の知見を得ている。 (1)細胞膜の脂質画分から得られた成分で処理すると、HA^+ウイルスの吸着活性が大幅に低下する。またこの成分をシアリダーゼで処理すると吸着阻害活性は消失する。HA^-のウイルスの細胞吸着活性はHA^+ウイルスの1/20程度であり、細胞膜脂質画分の阻害物質の影響を受けない。したがって、HAはその化学的性状から糖脂質に属する細胞膜成分に親和性を有すると考えられる。 遺伝子を組込んだ大腸菌で産生したVP23KをSepharoseに結合し、種々の条件で可溶化した細胞膜タンパクとの結合を調べた結果、オクチルグリコシド可溶化タンパク中にVP23Kとの結合を示す成分を見出された。結合活性を示す細胞膜タンパクは中性条件下では少なくとも12種類検出されるが、このうちウイルスの細胞への侵入・細胞融合を著しく促進する酸性条件下(ph5.0)で安定的に結合するタンパクは5種類であった。Sephacryl S-300を用いたゲルろ過でこれら5種のタンパクは分子量100万以上の分画に分離せずブロードに溶出されるので、これらは複合体を形成しているのかもしれない。 上記5種のタンパクを含む分画で免疫し作成した抗血清は、ワクチニアウイルスの酸性条件下での細胞への感染を効果的に抑制した。また、中性条件下で細胞への強い侵入・融合活性を示すVP23K変異株M4に対しては、抗血清は中性条件下でもその効果を発揮することが明らかになった。これら5種のタンパク中にVP23Kの結合タンパクが含まれている可能性が考えられ、今年度の研究で更に検討を続ける予定である。
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