我々はこれまでに、マウスのレベルでの実験によって、コレラトキシン(CT)の無毒の成分Bサブユニット(CTB)をアジュバントとして用いた経鼻接種インフルエンザ不活化ワクチンの有効性を示す証拠を確実に蓄積して来ている。一方、CTBそのものにはアジュバント活性がないことを示す報告がなされており、そこで微量のCTを添加した精製CTBのアジュバント作用を検討した。また、組換えDNAを用いて作製した大腸菌易熱性毒素(LT)とLTBを用いて同様のことを検討した。即ち、マウスにワクチン(5μg)と共に微量のトキシン(0.02-20ng)を添加したBサブユニット(2μg)を経鼻投与した。4週間後にワクチンのみを2次経鼻投与して2週間後に血中および鼻洗浄液中のIgAおよびIgG抗体価を測定した。その結果、トキシン添加Bサブユニットをワクチンと共に投与した群では、トキシンの投与量が多くなる程高いレベルの抗体応答が誘導された。このトキシンとBユニット間のアジュバント作用に関する相乗効果は、1次抗体応答のみでなく2次抗体応答でも認められ、鼻の洗浄液のIgA抗体応答に関しても認められた。このアジュバント作用によって産生される抗体量は、ウイルス感染に対して完全な防御能を発揮するのに充分Kものであった。また、この添加トキシンの量は、ヒトのレベルで毒性を発揮するレベルを下回っていた。これらの結果は、微量のトキシン(約0.1%)を含むBユニットがヒトの経鼻ワクチンのアジュバントとして実際に使われ得ることを示唆している。 さらに、LTの毒性の原因となるA1サブユニットの1つのアミノ酸を置換した幾つかの変異LT(mLT)について、経鼻インフルエンザワクチンのアジュバントとしての有効性と安全性を検討した。mLTとして、AlサブユニットのN末端から7番目のArgをLysに変えた(LT7K)、61番目のSerをPheに変えた(LT61F)、112番目のGluをLysに変えた(LT112K)、118番目のGlyをGlnに変えた(LT118E)、あるいは146番目のArgをGlnに変えた(146E)を用いた。これらmLTは何れも、wild typeのLTよりも毒性が低くなっていることがY1 adrenal cell及びCHO cellを用いたin vitro実験において確かめられた。また、mLT併用経鼻ワクチンを1ヶ月間隔で2回投与したマウスの鼻洗浄液中の抗HA IgA抗体応答や血清中のIgG抗体応答からLT7Kがwild type LTと同等のアジュバント活性を持つことが確かめられた。従って本実験で用いられたmLTの中にあって、LT7Kが毒性の少ない有効な粘膜アジュバントとして使われ得ることが示唆された。
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