リポ多糖類刺激によって、THP.1細胞でIL-8遺伝子が活性化されるが、この遺伝子発現にはNF-kBの活性化が必須であった。この系に、種々の抗酸化剤を添加したが、明らかな遺伝子発現抑制効果を示さなかった。これは用いた抗酸化剤の細胞への透過性などに問題がある可能性があると考え、この点を克服するために、リポ多糖類依存性にNF-kBの活性化を無細胞系で検討する系を確立した。この系では、NF-kBの活性化に先立ち、その細胞内阻害因子であるIkBのリン酸化が起きる一方で、IkBの分解は起きなかった。また、NF-kBの活性化にはスタウロスポリン感受性リン酸化酵素とチロシン・リン酸化酵素が関与するのに対して、IkBのリン酸化にはチロシン・リン酸化酵素が関与していた。さらに、粗精製したIkBリン酸化酵素は、リポ多糖類依存性に、IkBのC末端側に存在する、酸性アミノ酸に富む部分に存在するセリン・スレオニン残基、なかでもSer293をリン酸化した。さらに、このリン酸化酵素は、カゼイン・キナーゼやMAPKのペプチド性の阻害剤にては阻害されないことから、これらのリン酸化酵素とは基質特異性が異なった。リン酸化部位に相当するペプチドによって、無細胞系で認められるIkBのリン酸化・NF-kBの活性化がともに阻害されることから、この部位のリン酸化がこれらの現象に必須であることが明らかとなった。 IL-8遺伝子転写を抑制するFK506・糖質ステロイド・インターフェロンの作用機序についても分子生物学的に解析した。これらの薬剤は、NF-kBの活性化を抑制することによって、IL-8遺伝子発現を抑制することが明らかになった。以上の結果は、NF-kBの活性化を抑制することが、急性炎症反応で大きな役割を果たしているIL-8産生抑制、ひいては急性炎症反応の制御にもつながる可能性を強く示唆している。
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