ヒト第14染色体(14q32.3)に存在する免疫グロブリンV_H遺伝子全領域の詳細な物理地図の作成を試み、全領域をYAC、P1を用いて単離し、連結を完成させた。詳細な解析を行うため、単離したYAC、P1クローンをコスミド、ファージにサブクローンし全領域の精密な制限酵素地図を完成させ、領域内のV_H断片の数及び構成を明らかにした。その結果、ヒトV_H断片の総数は、個体間の多型により個人差があるが、81個+10〜11個程度であることが明らかになった。加えて、染色体第15番上(15q11)に7〜11個、染色体第16番(16p11)にも14〜17個のV_H断片が存在することが判った。以上を総合して、ヒトゲノム中のV_H断片の総数は100個から120個の間であろうと考えている。 次に、作成した物理地図をもとに、全領域の塩基配列決定に向けて、プライマー歩行法によるシークエンシングを実施した。計画当初は従来よりゲノムの大領域の塩基配列決定によく用いられるショットガン法を試みる予定であったが、領域中に存在する多数の繰り返し構造のため、塩基配列の結果に多くの困難が生ずることが予想された。そのため塩基配列のアッセンブリーの必要がないプライマー歩行法がより適切であろうと考え、大部分の領域をプラスミドにサブクローニングし、それらを鋳型として用いた。現在約600kbの領域の塩基配列が決定され、うち約400kbの塩基配列データの最終確認を終了した。従来のこの方法では合成プライマーの半数程度しか使用できないと考えられていたが、驚くべきことに合成プライマー1854個中1778個(約95.9%)が使用可能であった。また、プライマー当たりの平均解読塩基数は345塩基であり、充分に満足のいくものであった。以上から、今後1〜2年程度で全塩基配列決定が終了する段階に達したと考えている。
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