NF-IL6は、急性炎症において活性化される多くのサイトカインや急性期蛋白遺伝子の転写、マクロファージの分化や活性化に関与している。ジーンターゲティングにより作製されたNF-IL6欠損マウスは易感染性を示し、わずか500cfuという少量のリステリアを腹腔内に投与しただけで全例5日以内に死亡した。これは同じ細胞内寄生細菌であるサルモネラに対しても同様である。リステリアの最終的排除はマクロファージによりなされるため、このマウスにおけるマクロファージ機能を解析した。遊走性、貪食能には異常がなく、活性化の示標として調べられた細胞表面のMac-1、Fc_γR、MHCクラスII、LFA-1等の誘導にも異常が認められなかった。多くの炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF_α等)も正常に産生されていたが、G-CSFはマクロファージと線維芽細胞においてのみ誘導が弱く、NF-IL6が組織特異的にG-CSF遺伝子の転写を制御している可能性が示唆された。これまでの研究で、リステリア感染に重要とされるIFN_γやTNF_αは正常に産生されており、エフェクター分子として重要だと思われる一酸化窒素(NO)の産生にも障害はみられなかった。NO合成酵素阻害剤であるNMMGを用いた実験から、IRF-1を介するIFN_γによるNO産生系も、リステリア排除に重要ではあるが、NF-IL6を介する別の遺伝子発現も重要なことが明らかとなった。一方マクロファージに貪食されたリステリアは、電顕で観察したところ対照と異なり多くがファゴゾームから細胞質内へ脱出、増殖していることが判明した。従って、このマウスのマクロファージはリステリアを貪食した後ファゴゾーム内に幽閉しておくことに障害があることも明らかとなった。今後はマクロファージの他の機能を解析するとともに、NF-IL6が制御する下位遺伝子のクローニングも試みる。
|