本研究は肺癌喀痰細胞診に対して分子疫学的手技を導入し、喀痰細胞中の癌遺伝子、癌抑制遺伝子の検索を行なったものである。 今回は、山形市の喀痰細胞診において判定がC、D、Eであった喀痰を対象として検討を行った。喀痰細胞診でこれらの判定を受ける検体は少数であり、本研究においても回収し、検索し得た検体は12例にとどまった。また、癌遺伝子K-rasの突然変異はその部位が一定しているため、喀痰細胞における突然変異の検索は可能であったが、癌抑制遺伝子p53はその変異が広範な領域にわたっており、喀痰細胞における変異の検出は困難と断定し、今回の研究においてはK-rasのみを対象とした。 上記の判定を受けた喀痰からDNAを抽出したのち、PCRにてK-ras領域を増幅させた。このPCR産物をベクターに挿入し、コロニーハイブリダイゼーションを行ない、癌遺伝子K-rasコドン12の突然変異を検出した。今回得られた12例の検体においては、K-rasの突然変異は検出されなかった。このことから、喀痰細胞においてはK-rasの突然変異は存在しても低率で、喀痰細胞診に導入するには、更なる検討が必要であると考えられた。
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