研究概要 |
毛髪中の金属の測定の意義は、臨床的には種々の疾患の指標になること、衛生学的には過去の金属暴露量の時間的推移を知る情報を持っていることである。毛髪組織は金属への親和性が高く、しかも試料採取が容易で、保存や取扱いも血液などに比べて簡便なことがあげられるが、毛髪の微細な部位の金属測定が困難であった。本研究ではこの測定法にSR-XRFを用いることによって、今日まで未解明とされた事実を明らかにすることができた。 1.金属化合物の水溶液に毛髪を浸し、毛髪への金属の吸着実験を行った。その結果、メチル水銀と塩化第二水銀はいずれもほぼ同程度の濃度で毛髪に水銀を吸着した。血中から毛髪への移行の場合と異なるメカニズムが存在した。また、メチル水銀は毛髪のごく表面のみに吸着しており、毛髪の内部までは移行しないことが明らかとなった。 2.メチル水銀投与ラットの獣毛への水銀の移行の特徴を明らかにした。即ち、メチル水銀投与ラットの獣毛断面での水銀の分布は、中心部で濃度が減少しているが、水銀はほぼ硫黄の分布と対応しており、その相関係数r=0.898で有意に高い相関性を示した。このことは、水銀の血中から獣毛への移行は、硫黄化合物と親和性をもって蓄積するものと考えられた。 3.金属ヒューム及びミストで暴露された金属精錬工場労働者の頭髪への金属分布を明らかにした。これら労働者のうち、鉛,亜鉛,銅暴露者が最も高く数百ppmであった。次いでCdの99ppm,Niの25ppmの順であった。これら金属を頭髪断面で観察した場合、髪の表面からせいぜい25-35μm程度の所までにしか高濃度に分布しておらず、特に汚染金属であるPbにこの特徴がみられた。 以上のことから、SR-XRFによって、毛髪試料が更に生物学的モニタリングとして利用できる可能性が高くなった。
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