アルツアイマ-型老年痴呆では、脳内アセチルコリン合成酵母活性の低下やムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)の減少が指摘され、病因としてムスカリン性の皮質-海馬経路の変性が注目されている。本年度は、脳の老化に関連するmAChRの制御機構について検討した。まず、ラット褐色細胞腫由来であるPC-12細胞を用い、神経成長因子を添加しノーザンブロット法によりmAChR mRNAを測定したところ、濃度および時間依存性にmRNAが増加した。抗痴呆薬であるテトラヒドロアミノアクリジンはmAChR mRNAのレベルに有意な変化は与えなかった。次に、ラット小脳顆粒細胞を培養し、これにmAChRの作動薬であるカルバコールを添加するとmAChR mRNAは時間、濃度依存的に減少し、この作動薬の刺激による細胞膜上の受容体の減少はトランスグルタミナーゼを介するものであり、一部はリサイクルされ、一部は細胞骨格蛋白により細胞内へ輸送され分解される。微小管脱重合剤であるコルヒチンを8時間作用させるとm2-mAChR mRNAが増加し、この変化は即時型初期遺伝子である c-fos mRNAの上昇に一致していた。これに対し、m3-mAChR mRNAは、コルヒチンにより減少し、これはカルバコール刺激によるホスファチジルイノシトールリン脂質代謝回転の減少と並行していた。そしてどちらの変化も微小管安定化剤であるタキソ-ルによってブロックされた。このように神経伝達機構は受容体の後に存在する細胞内伝達系に加え、細胞骨格系蛋白も受容体の発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。次に、生後1年以上生存しているラットを老化モデル動物として用い、脳内各部位のmAChRのmRNAを測定したところ、若年ラットと比較して、大脳皮質や海馬でmRNAがやや増加傾向にあり、老化によるアセチルコリンの減少に対する代償性の作用ではないかと推察された。
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