環境汚染物質による呼吸器上皮細胞のアポトーシス誘導を検討する目的で、肺胞TypeII細胞の初代培養系を用いて重金属の暴露を行い、この細胞核DNAの断片化に及ぼす重金属の影響について免疫生化学的手法にて解析した。重金属のなかでも特にニッケルは短時間暴露において著明な核DNAの断片化促進作用が明らかとなった。次いで水銀、カドミウムでも同様にDNA断片化がみられたが、マンガンや鉛では影響はみられなっかた。また^<51>CrやLDHのメディウムへの遊離による細胞毒性評価を同時に検討すると、ニッケル暴露では細胞障害性は水銀やカドミウムに比較すると非常に少ないことより、むしろニッケルは呼吸器上皮細胞核に対する作用が大きく、遺伝情報伝達機構および遺伝子発現機構に大きな影響を及ぼすと考えられる。このことは呼吸器系におけるニッケル発癌メカニズムを解明する上において非常に重要であると考えている。形態学的観察においては、走査電子顕微鏡下での水銀とカドミウム暴露細胞では細胞表面の微絨毛が消失して表面が平滑になり、細胞体積は減少していた。倒立顕微鏡下での観察においても大部分の細胞は破壊され、接着細胞は著明に減少していた。しかしニッケル暴露細胞は対照と同様な細胞膜構造を有し、細胞膜破壊像は観察されなっかた。DNAの断片化がアポトーシスの形態学的特徴であるクロマチンの凝縮と核の断片化の引き金になると考えられることより、現在、透過型電子顕微鏡でのこれら重金属暴露細胞の核内クロマチンの凝集の有無について検討している。またアガロースゲルの電気泳動法による重金属暴露細胞の染色体DNAの断片化の有無、およびアポトーシス関連遺伝子発現の検索についても今後検討し、呼吸器上皮細胞のアポトーシス誘発因子として可能性のある重金属について解析を行う予定である。
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